ベトナムで会社設立を考える企業にとって、税務調査に対応できる体制づくりは避けて通れない課題です。会社設立時の人材選びや仕組みづくりが不十分だと、税務調査対応でつまずき、経営に大きな負担を強いられることがあります。
本記事では、税務調査対策に必要な人材選びのポイント、長期的に役立つ社内の仕組みづくりのコツ、そして経理内製化の具体的なメリットについて解説します。経理業務の内製化によって税務調査時の迅速な対応やコスト管理が容易になり、組織としての信頼性も向上します。
【目次】
税務調査対策を見据えた人選びと仕組みづくりの重要性
税務調査対応で躓く企業の多くは、会社設立時の人材選びや組織の仕組みづくりが不十分な場合が多いです。設立初期から適切な体制を構築するためには、以下の点が重要になります。
税務調査対策に必要な組織作り:①人選び
会社設立時に現地管理者が日本語しか話せない場合、経理・人事の担当者として日本語が話せるベトナム人スタッフを選びたくなるかもしれませんが、ここでは慎重になるべきです。
最も求められるのは専門分野(資金管理、税務調査対応、税金計算など)のスキルであり、日本語能力は必須ではありません。特に将来的な会社の規模拡大を見据えている場合、経理業務と輸出入業務や経理業務と調達業務を兼務させることは避け、専門分野に注力できるような配置が望ましいと言えます。
さらに、設立初期から1年後に見込まれる売上規模や従業員数を考慮し、その規模に応じた経理・人事スタッフの人数を想定して採用することが推奨されます。また、撤退する可能性が低い限り、長期的に税務調査対応ができる人材を念頭に置いた人選が必要です。設立した翌月にすぐ撤退するわけではないので、調査対応ができるようになる人材というのも念頭において、人選びを行うことをお薦めします。
税務調査対策に必要な組織作り:②仕組みづくり
税務調査に対応するための社内の仕組みやルールは、会社設立時から整備しておく必要があります。税務調査が始まってから対応を始めるのでは遅く、途中で仕組みを構築するのは非常に手間がかかるため、早期からルールを確立しておくことが重要です。もしルールが不在の状態で業務が進んでいると、あとから新たに厳格なルールを導入するのは社内で敬遠されがちです。
社内体制やルールが設立時から整備されていれば、担当者が変わっても仕組みは維持されます。反対に、ルールがない状態が続けば、それがその会社の「当たり前」となってしまい、結果として未来永劫同じ状況が続くことになりかねません。税務調査に対応できる体制を構築し、長期的に維持するためにも、設立時の仕組みづくりは非常に重要です。
経理業務は内製化がおすすめ!その理由とは?
経理業務(記帳代行、税金計算)を外部委託するのか、自社内で完結させるのかのどちらが良いかを考えた際、筆者の結論は自社内でやることです。ミニマム投資として始めたとしても、ベトナムでの将来性を考え規模拡大の予定があれば、最初から自社で経理の仕組みを作っていくことをお薦めします。
理由1:会社の利益を守るのは自社スタッフ
税務調査の最終的な対応や抗弁は、最終的に自社スタッフが行うものです。外部委託先が調査においてどこまで自社の利益を守るために尽力してくれるかは不確かと言えます。自社スタッフであれば、より責任感を持って調査官と向き合い、反論や交渉に取り組むことが可能となるでしょう。
理由2:社内に「経理」の概念が定着する
経理を外部委託すると、社内に経理知識を持つ人材がいなくなり、経理視点が欠けてしまうリスクがあります。例えば、損金不算入項目を理解していなければ、経費として処理できない費用が誤って経費に計上されたり、出張費が規定に基づかず処理されてしまうことがあります。社内に経理担当者がいれば、こうした不備を防ぐことができ、経理の視点から正確な処理が行われます。
また、設立時は外部委託先から、各種経理に関わるひな形をもらって開始した場合、「なぜそのような形式になっているのか」「自社の場合どこを変えていく必要があるのか」等の判断ができなくなります。法令変更があった場合、どこを変更しないといけないのかなど、経理知識や経験の無い方にはわかりません。
経理知識・経験の無い方がそれらを使い続けると「おそらくそれで合っているであろう」という感覚で、なんとなくの処理が延々と続いてしまい、会社としてそれで良いという形になってしまいます。そうなった場合、後から新しくひな形を変えたり、記載内容を増やしたり、正しい経理処理に基づく形に変えようとすると「今まではこれで問題無かったのに」という反発の種にもなりかねません。
理由3:チーフアカウンタントの知識・経験を活かせる
外部委託の場合、チーフアカウンタントの役割が限定され、データ送信や支払い承認のみとなってしまうことが多く、経理知識や経験を活かす機会が減ります。例えば、チーフアカウンタントの資格を持つ経理担当者を雇い、外部委託で記帳代行と税金計算まで依頼している場合、その方の主な役割はただのデータ送信役と支払い承認係ぐらいにしかなりません。
こうした場合、この方が知識や経験が活かせず、ただの総務のようなことになり、対税務署の経験やスキルが伸びないことになります。専門職である経理をキャリアとするようなチーフアカウンタントからすれば、このような環境下においてはスキルや経験の幅が広がらないことに不満を感じると思います。
また、税務調査を受けるとなった場合は、このチーフアカウンタントの方の責任の範囲はどこまでになるのか考えておく必要が出てきます。単純に考えれば、会計データを入力し、税金計算しているのは外部委託先だから、この方の責任はどこにもないことになります。
外部委託をする場合、重要な部分を切り離すことで安心感は得られるかと思いますが、税務調査の際はどのような経験のある方がどこまで対応してもらえるのか、対応の範囲はどこまでか、外部委託会社の責任の範囲外はどこかなど、契約内容をしっかり確認する必要があります。
経理業務の内製化により、迅速な対応と柔軟さが可能に
経理を内製化することで、迅速な対応が可能となり、経理データを有効に活用できる環境が整います。外部委託では、決算書や内部処理を確認する際に社内調整が必要になり、即座に対応できない場面もありますが、内製化された経理体制があれば、本社側の確認も迅速に行うことができます。例えば、四半期ごとに財務諸表を20日までに現地管理者と本社へ提出するというルールを設けることで、効率的な確認が可能です。
また、自社スタッフが経理データを入力することで、案件ごとの原価分析や見積書との突合が行いやすくなります。税務調査対応のために設けた社内ルールは、原価管理の向上にも役立ち、データ集積もスムーズに行えます。これにより、一般的な原価管理ソフトとの不一致問題も解消されます。
長期的な視点で経理の内製化を進め、スタッフを育成しましょう
ベトナムでの長期的な経営を考えると、外部委託に依存するのではなく、経理を内製化し、自社内で適切な人材を育てていくことが重要です。特に小規模から始める場合は、即戦力となる経験者ではなく、一定の知識とやる気を持った人材を採用し、外部サポートを活用しながら少しずつ自社スタッフを育成していく方が、長期的には大きなメリットが得られます。
Viet Nhat Company(ベトニャットカンパニー)では、企業様の経理業務の内製化をサポートする「資金管理の基礎づくりプラン」や人材採用時のサポート(履歴書チェック/面接同席など)をご用意しております。お客様スタッフに資金繰り表の作成方法、作成時のポイント、分析方法まで指導し、社内の管理体制を強化できます。
税務調査に対応できる強い組織づくり・仕組み作りにご興味のある方は、ぜひ一度お気軽にお問い合わせください。
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